6月 菊水味の歳時記 水の月

水無月     陰暦のこの月は 田植えの準備万端整い  田に水が引かれる月。 

 

六月は、今は亡き母の月    母も私も水無月生まれ。  

 

五月に泳がせた、鯉のぼりの大竹が、この頃には、雨にも打たれ 時折夏を思わせる日差しに晒され 茶色に変色しています。

 

その庭は、祖母も愛していた手製の庭園で、この庭を見て一年の四季がわかるほど、それぞれに山野草から 茶花まで丹精込めて、植え付けられていたのでした。

 

子供の頃、外から帰りますと、祖母の姿が見えません。

大抵はこの庭の 草むらに隠れるように土いじりをしているので、声をかけると、ひょっこり顔を出すのでした。

 

今日は、親戚のおじさんが見えるからと、里から届けられた鯉と岩魚が池の地下水で、網袋ごと、さらされていました。「今日はお客様ですから、初物の鯉と岩魚ですよ」と それは張り切りながら、山菜と名残の筍を洗っておりました。

 

「さあー、あなたも手伝いなさい 小屋から炭を持ってきて頂戴   それに、ここへ来て お野菜を洗うのよ。」

母は、厨で鯉こく用の新牛蒡を笹がきにしておりました。

 

毎年の行事や、節句などで、デザート を作るのですが、この月は、水無月にちなんだお菓子  それこそこの月は、水無月と言う名前のものがお料理されました。

 

葛粉や、豆乳 寒天などで練り上げたり、流したりしたものです。

 

甘くすればお菓子ですし、調味すれば小鉢や、お椀の種になります。

共に小豆を乗せるのが決まり事ですが、これは、古の貴族達が、夏に涼を取るために 真冬に用意した氷を、氷室と呼ばれる小山の穴倉に保存貯蔵していました。

その氷は涼を取るためと、厄払いのために用いられるのですが、山倉から、切り出された氷を表しているのです。

そして、切り出すときに氷に着いた石粒や、砂を小豆で見立てているのですが、日本料理はまさに、目でも楽しめる美しさがあります。

 

氷に見立てた葛の透明感に小豆の色が、それは、目でも涼を感じることの出来るひと品でございますね

 

祖母と母は、二人かかりで練り上げ 木の抜き箱に流し入れると、それはそれは急ぐように煮あげた小豆を敷き詰めました。

 

更に軽く蒸しあげると、木箱のまま、小豆には被さらぬように冷水で晒していきます。

 

私は、水に晒され 透き通るその水無月を 時間も忘れて見ていた記憶があるのですが、祖母が横から、「葛のところがもちもちになって、冷たくなったら 水を止めるのよ」

子供の頃から、私は厨にいるのが好きでしたが いろいろなものが、つまみ食い出来ることも楽しいのですが、祖母達の立ち居振る舞いを見るのも大好きでした。

 

やはり、この季節に活躍するのは、大事にしまってあるギヤマンものの器たちです。氷の入った桶には、その器は冷やされ そして、水無月箸と言って、竹製の揃え箸は盃一つを入れた檜の桶に浮かんでいます。

 

じめじめとした陽気に からからの箸では野暮でございます。

 

しっかりと湿らされた箸はやはり、適度に絞られた日本手ぬぐいでかわかぬように包まれていました。

どれも、これも、今日お迎えするお客様の為、たった一度かもしれぬこの日の為に 祖母はお迎えの用意をしておりました。

 

やはり、里の友人から頂いた朴葉の蕾花一枝 祖母はその花を鋏で揃えながら

「この花は香りが強過ぎるので、玄関の脇か 憚りのところが良いわね  お部屋では、きつい香水のようでお料理も美味しくなくなるのよ」と話しておりました。

 

私は、今毎日のように、皆様をお迎えしているのですが、この無償の行為にはかないませんし、このお客様にも、材料や、草花までにも愛情を注ぐ このことこそ 正しく

一期一会なのでしょう。

料理    技術や、テクニックではありません  理を計り、司る  このことを料理と呼ぶのでしょう

 

少々高いのですが、祖母の水無月   気が向いたら作ってみましょうか。

 

ようこそ、ようこそ お越しくださいませ。     

 

  水無月弁当      水無月のおまかせにて お迎えいたします。                 

馳走    時雨の季

     菊水グループ総料理長 Shin Takahashi

 

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コメント: 1
  • #1

    sex telefon (火曜日, 31 10月 2017 08:18)

    przeciwlotniczy