早蕨 菊水味の歳時記  馳走 「菊水庵」 By 料亭「菊水」

 

 早蕨   

 

   まだ、来にぞ 摘みに来にける 遙々と 今萌え出ずる

 

                    野辺の 早蕨               祐子内親王家

 

弥生  いよいよ さて これから生まれる、そのような意味があるそうですが 長い、長い雪を割り芽を出す ふきのとう など、山にわけいって、見つけたときは心踊るものがありますね。

 

残雪と、枯れ草の陰から ほのかな陽射しに包まれ、土を割りながら、顔を出す様はそのきらきらと耀く産毛も美しく、つい見とれてしまいます。

 

金色の いとかすかなるものなれど

      

                       人土筆 摘む みずうみの岸 

 

                                                                                                                                            与謝野晶子

 

春休みともなると、私はいつものように祖母の家に行くのですが、まだ日陰には雪が残っていて、半分はかき氷りになった残雪を手にとり、丸めたり、薄く氷りの張った池に落としたりしたものです。

降ったばかりの雪と違い、残雪はその結晶も融けかかったり、かたまったりししながら幾重にも霜と共にその形を変え 日陰に遠慮するかのように白さを保っているようでした。

 

街からきた私は遠い山裾の残雪や、小川の土手に残る雪氷が珍しく、何をして遊ぼうかと、わくわくした覚えが、あります。

 

お雛様が 終わると、お彼岸ですが私は、祖母の炊いた小豆餡が大好きで お萩、いや、ぼた餅作りを手伝ったものです。

小豆の仕込みから、餅米のしたごしらえまで、それは、それは丁寧に慈しみながらお料理をしておりました。

ご先祖様にも、御供えするのですから)と番茶を入れながら、話していた事を思い出します。

 

戦死した 叔父も、お酒を飲みながら牡丹餅を食べたほどですから、それは、好物だったのでしょう。

散ってから、勲章を戴いてもね?と話す母に 祖母は (家族を残し,まして自ら、生き死にを決める事など貴方に何が分かるの?)と話ていました。

 

命の重さ  有りがたさ そして、自然の力には、敵わぬ弱き私達。

早蕨の産毛を塩で擦りながら祖母は、

(叔父さんも来るのだから、美味しい山菜を召し上がっていただきましょうね。)と呟きました。

 

赤子にほほずりをする事 山菜を手折ること 命の重さは 心の持ち方なのでしょうね。

 

これ見よがしの 偽物ではない、皆さまの心に少しでも触れる事ができますよう、精進したいと思います

 

             馳走  菊水庵   毎日の出会いに感謝します。